BtoBブランディングとは何か
BtoBブランディングは、企業を相手に商品やサービスを売る会社が行うブランディングです。取引先の頭に「この課題ならこの会社」という認識をつくる活動です。ロゴや社名を新しくすることは、その一部にすぎません。
何を打ち出すか、誰に向けるかによって、いくつかの種類に分けられます。
| 分け方 | 種類 | 内容 |
|---|---|---|
| 何を打ち出すか | 企業 | 会社そのものの理念、姿勢、信頼 |
| 何を打ち出すか | 商品・サービス | 商品やサービスの価値、用途 |
| 何を打ち出すか | 技術 | 自社が持つ技術や専門性 |
| 誰に向けるか | 社外向け | 顧客、見込み客、取引先、求職者 |
| 誰に向けるか | 社内向け | 社員。打ち出す価値を日々の仕事に落とす |
社外に向けた取り組みで目指すのは、発注先を探している人に候補として思い出され、選ばれる状態です。
BtoBに限らないブランディングの意味と、思い出されるまでに要ることは、ブランディングの記事で整理しています。
関連記事ブランディングとは、選ばれる理由を決めて発信し続けること
BtoCのブランディングとの違い
BtoBとBtoCのブランディングは、買う側の決め方が違います。
| 観点 | BtoB | BtoC |
|---|---|---|
| 買う人 | 企業。担当者、上司、決裁者など複数人が関わる | 個人。本人か家族で決める |
| 検討期間 | 数週間から数か月。長いと年単位 | 即日から数週間 |
| 選ぶ基準 | 業務の成果、費用対効果、実績 | 好み、共感、価格 |
| 主な接点 | Webサイト、営業、展示会、資料 | 広告、店頭、SNS |
そのため、BtoBブランディングでは、感情に訴えるイメージより、専門性や実績、信頼を具体的に伝えることが重視されます。
表にあるのは、企業として発注先を選ぶときの基準です。一方、選定を担う担当者個人には、もう1つ事情があります。発注先の選定で失敗すれば、選んだ担当者が責任を問われます。この事情は、第5章で扱う稟議の話につながります。
必要とされる理由と、主な効果
BtoBでもブランディングが必要な理由は、主に2つあります。
1つ目は、商品やサービスの違いが見えにくくなったことです。技術や機能が似てくると、仕様書や見積書で目につく違いは、価格だけになりがちです。
2つ目は、発注先の探し方が変わったことです。発注を検討する人は、営業担当者に会う前にWebで調べ、候補を絞ってから問い合わせることが増えています。その段階で候補に残らなければ、比べてもらう機会もありません。
効果としては、次のものがあります。
- 候補に残る:発注先を探す人に思い出され、比べる対象に入る
- 価格だけで比べられにくくなる:価格のほかにも選ぶ理由ができる
- 社内の合意が進みやすくなる:決裁者も名前を知っていれば、稟議が通りやすい
- 採用に効く:何をしている会社かが伝わり、応募につながりやすくなる
マーケティングとの違いも押さえておきます。ブランディングは選ばれる理由をつくる活動、マーケティングはその理由を届けて売上につなげる活動です。
進め方の基本と、効果の測り方
基本の進め方は、次の4つの工程です。
- 目的と相手を決める:認知を広げるのか、引き合いを増やすのか。どの業種・規模の会社の、誰に届けるのか
- 自社の価値を言葉にする:強み、競合との違い、顧客から評価されている点を集め、打ち出す価値を決める
- 接点の言葉をそろえる:Webサイト、営業資料、展示会、営業の説明で、同じ価値を同じ言葉で伝える
- 効果を測る:認知度や問い合わせ、商談の数を定期的に見て、直す
BtoBで特に違うのは、1番目の「相手」の決め方です。BtoBでは、1社の中に複数の相手がいます。情報を集めて候補を比べる担当者、それを承認する上司、最終的に決める決裁者です。立場によって知りたいことが違うため、相手を分けて考えます。
3番目の「接点の言葉をそろえる」も欠かせません。Webサイトに書かれていることと営業の説明が食い違えば、発注する側の担当者は、社内で説明する言葉を失います。
効果を測る指標には、認知度、社名を思い出してもらえる割合、顧客が他社に勧めたいと思う度合い、問い合わせや商談の数があります。
ここまでが、BtoBブランディングの基本です。次の章からは、担当者が社内で説明できるかどうかに絞ります。稟議が止まる理由、受託型の会社が整えるもの、どこまで知られればよいかの3つを見ていきます。
稟議を書くのは、発注する側の担当者
第3章で、効果の1つに「社内の合意が進みやすくなる」を挙げました。名前が知られていることが稟議を助けるのは確かです。ただ、知名度で稟議を通すのは、広く名前を知られた会社の戦い方です。多くの会社にとって、決裁者に名前を知ってもらうことは、すぐには手の届かない目標です。
では、稟議はどこで止まるのか。
たとえば、ある会社の担当者が、業務システムの見直しを、Webサイトで見つけた会社に相談したとします。先方から現状調査の提案と見積もりが示され、担当者は前向きに稟議を上げます。ところが上司からは、「調査のあと、全部でいくらかかるのか」と聞き返されます。調査の費用ははっきり示されていても、その先の総額が見えなければ、予算は確保できません。総額の見通しが立たなければ、相談先の名前が知られていても、稟議は止まります。
私自身、担当者は前向きだったのに、上司の段階で止まった相談を経験しています。
稟議が止まるのは、多くの場合、担当者が上に説明できないときです。担当者が稟議に書くことは、おおむね次の4つです。
- 何を頼むのか:依頼する内容と、その範囲
- なぜこの会社か:ほかの会社ではなく、ここに頼む理由
- いくらかかるのか:今回の費用だけでなく、その先に必要になる費用の見通し
- うまくいかなかったらどうなるか:途中でやめられる区切りと、手元に残るもの
名前が知られている会社は、2つ目と、4つ目の一部を、知名度で代わりに埋められます。「あの会社なら」という安心が頼む理由になり、うまくいかなかったときも「あの会社に頼んだのだから」と言えるからです。名前が知られていない会社は、4つとも中身で埋めることになります。4つとも埋まっていれば、名前が知られていないことは、稟議の中で大きな問題になりにくくなります。
この4つは、担当者が問い合わせる前に確かめたい情報でもあります。Webサイトや営業資料に、担当者が稟議に転記できる形で示しておきます。
- 引き受ける範囲と、引き受けない範囲
- 似た相談を受けたときの事例
- その先を含めた費用の目安と、変わる条件
- 進め方と、途中でやめられる区切り、やめたときに手元に残るもの
第2章で見たとおり、担当者は発注先選びで失敗したくありません。範囲と費用、途中でやめられる区切りが先に書かれていれば、うまくいかなかったときも「承認された範囲で進め、区切りで止めた」と説明できます。こうした材料がそろっている会社なら、担当者は、選んだ理由を社内で説明でき、うまくいかなかったときも責任を問われにくくなります。BtoBブランディングで先に整えるのは、名前を広く知ってもらうことより、この材料です。
発注する側が、どんな質問で発注先を確かめるかは、ブランディング会社の選び方の記事で扱っています。
関連記事ブランディング会社は、「はい」で答えられない質問で選ぶ
受託型の会社は、指し示せる商品がないところから始まる
稟議の材料が最もそろいにくいのは、受託型の会社です。BtoBの会社は、売るものの形で大きく2つに分かれます。
| 観点 | プロダクト型 | 受託型 |
|---|---|---|
| 売るもの | 製品、パッケージ、サービス | 人と工数。顧客ごとに設計して作る |
| 業種の例 | 部品・機械メーカー、SaaS | システム開発、制作会社、受託加工、士業、コンサルティング |
| 見せられるもの | 商品そのもの。仕様、価格、デモ | 過去の実績と、担当する人 |
| 価格 | 事前に示せる | 要件が決まるまで出しにくい |
プロダクト型の会社は、商品そのものが「この課題ならこの会社」の目印になります。
受託型の会社が見せられるのは、商品ではなく、過去の実績と担当する人です。顧客ごとに中身が変わるため、会社の説明は「幅広いご要望にお応えします」「何でもご相談ください」になりがちです。その結果、同業の多くの会社と同じ言葉を並べることになります。これは言葉の選び方の問題ではなく、売るものの形から来る構造の問題です。ただ、売るものの形は変えられなくても、何を引き受けるかは決められます。そこが決まっていなければ、目印は立ちません。
目印が立たない原因が、伝え方にあるのか、何を引き受けるかがまだ決まっていないことにあるのか。この見分け方は、リブランディングの記事で扱っています。
さらに受託型の会社に頼む場合、担当者は、第5章の4つのうち、「何を頼むのか」の範囲と「いくらかかるのか」の費用が特に書きにくくなります。要件が固まるまで、どこまでをいくらで引き受けるかが決まらないからです。範囲も費用の見通しも書けなければ、担当者は稟議を上げにくくなります。
受託型の会社が整えるものは、3つあります。
1つ目は、何屋かを一言で言える定義です。「何でもできる」ではなく、どの業種の、どんな困りごとを、どこまで引き受ける会社かを決めます。定義とは別に、実績で裏づけられる得意分野を1つ持っておくと、覚えてもらいやすくなります。
2つ目は、範囲と費用を出すまでの進め方です。受託型のサービスは、パッケージソフトのように発注前に試してもらうことができません。そこで、相談の段階で範囲を絞り、最初の段階の費用だけでなく、その先を含めた総額の幅と、幅が変わる条件を出す手順を、先に示しておきます。発注の前に、担当者が稟議を書けるところまで範囲と費用を具体的にしておけば、試してもらえない分の安心を補えます。
3つ目は、事例の書き方です。完成物の写真や取引先の社名を並べるだけでは、担当者は自分たちの状況に当てはめられません。「どんな課題があり、どこまでを引き受け、何が変わったか」の順で書くと、担当者は稟議の「何を頼むのか」「なぜこの会社か」にそのまま使えます。
何屋かを定義するには、どの仕事を引き受け、どの仕事を引き受けないかを決める必要があります。その決め方は、受託加工の会社を例に、製造業のブランディングの記事で整理しています。
関連記事製造業のブランディングは、何を売るかを決める経営戦略
知られる範囲は、市場全体でなくてよい
第4章で挙げた指標のうち、認知度や社名を思い出してもらえる割合は、市場全体での認知を目標にするときのものです。今すぐ発注を検討している会社は、市場のごく一部です。大半は将来の顧客候補なので、検討が始まる前から知ってもらおう、という考え方です。
この考え方は、市場全体を相手にできる会社には合っています。ただ、受けられる仕事の量が、市場全体の需要よりずっと小さい会社にとって、市場全体に知られることは目標になりません。必要なのは、自社を候補にしてくれる相手の中で選ばれ、その相手の稟議が通ることです。それだけでも、自社の受注枠を満たせます。さらに、受けられる量を超える引き合いが続けば、仕事を選べるようになり、価格も自社で決められるようになります。この関係は、前の章で紹介した製造業のブランディングの記事で詳しく見ています。
また、名前が知られていることは、稟議の中では助けになりますが、候補に入るかどうかとは別の話です。名前を知っていても、「この課題ならこの会社」という結びつきがなければ、候補には入りません。その結びつきは、同じことを言い続けることで、少しずつできていきます。第4章の「接点の言葉をそろえる」は、そのためでもあります。
では、何を測ればよいか。確かめたいのは、担当者の相談が社内で通ったかどうかです。第4章で挙げた問い合わせや商談の数は、稟議より手前の状況を示す数字です。次の表の項目と合わせて見ます。
| 見ること | 見方 | 分かること |
|---|---|---|
| 発注に至った割合 | 担当者からの相談を、発注に至ったもの・他社に決まったもの・社内で止まったものに分けて数える | 担当者が社内で説明できているか |
| 止まった理由 | 社内で止まった相談について、どこで、何を理由に止まったかを担当者に聞いて記録する | 4つの材料のどれが足りないか |
| 問い合わせ前に見られたページ | 問い合わせた人が、事前にどのページを見ていたかを確かめる | 担当者が材料をどこで集めているか |
社内で止まった理由は、担当者に聞けば教えてもらえることが少なくありません。「上に説明しきれなかった」「費用の見通しが立たなかった」という答えが続くなら、足りないのは知名度ではなく材料です。
ARROWSのブランディング
第6章で、受託型の会社が整える1つ目に、何屋かを一言で言える定義を挙げました。何の会社かを一言で説明できず、価格で比べられてしまう。ARROWSのブランディングは、そうしたご相談にお応えしています。第6章の定義を決めるところから入り、何を売っていて、どんなお客様に、なぜ選ばれてきたのかを伺って、選ばれる理由を言葉にします。
第7章では、名前を知っていても「この課題ならこの会社」という結びつきがなければ、候補には入らないと書きました。ARROWSのブランディングでも、名前を広く知ってもらうことより、候補にしてくれる相手に「この課題ならこの会社」と結びつけてもらうことを目指します。そのために、Webサイト・会社案内・名刺、そして社員の方が話す内容まで、同じメッセージを伝え続けられるようにします。
まとめ
BtoBの発注では、自社を見つけた担当者と、発注を決める人が別にいます。担当者は、上司や決裁者に、この会社に頼んでよいと説明します。
名前が広く知られている会社は、その説明の一部を知名度で埋められます。そうでない会社は、何を頼むのか、なぜこの会社か、いくらかかるのか、うまくいかなかったらどうなるかを、中身で埋めます。指し示せる商品を持たない受託型の会社ほど、この4つの材料を先に整える必要があります。
どれだけ知られたかより、担当者の稟議が通るようになったか。BtoBブランディングの成果は、そこに表れます。




