バリューチェーンとは

バリューチェーン(価値連鎖)は、会社の仕事を、材料の仕入れ、製造、出荷、販売、販売後の対応といった活動に分け、どの活動がお客さんにとっての価値を生んでいるかを見る考え方です。経営学者のマイケル・ポーターが、1985年の著書『競争優位の戦略』で示しました。

ポーターが所属するハーバード・ビジネス・スクールの研究所は、バリューチェーンを、会社を戦略にかかわる活動に分け、競争優位の源泉に目を向けるための道具だと説明しています。ここでいう源泉とは、より高い値段や、より低いコストにつながっている、具体的な活動のことです。同じ説明の中で研究所は、活動を、コストのかかる仕事としてだけでなく、商品やサービスに少しでも価値を加えるべき段階として見るように、とも書いています。

出典:Harvard Business School Institute for Strategy and Competitiveness『The Value Chain』

活動は、お客さんに届くまでの流れに直接かかわる主活動と、それを支える支援活動に分けます。

  • 主活動(5つ):購買物流(材料や部品を受け入れ、保管する)、製造(作る)、出荷物流(できたものを保管し、届ける)、販売とマーケティング(知ってもらい、買ってもらう)、サービス(売ったあとの修理や問い合わせへの対応)
  • 支援活動(4つ):全般管理(経営の計画や経理、法務など、会社全体を支える仕事)、人事労務管理(人を採り、育て、評価する)、技術開発(作り方や商品を良くする)、調達(材料や機械、外注先などを選んで買う)
バリューチェーンは、主活動5つと支援活動4つでできている 支援活動 全般管理:経営の計画・経理・法務 人事労務管理:人を採り、育て、評価する 技術開発:作り方や商品を良くする 調達:材料・機械・外注先を選んで買う 主活動 購買物流 受け入れ・保管 製造 作る 出荷物流 保管し、届ける 販売と マーケティング 知ってもらい、 買ってもらう サービス 売ったあとの 対応 マージン お客さんが 払う額から、 すべての活動 にかかった コストを 引いたもの ポーター『競争優位の戦略』の分け方をもとに筆者作成。名前は製造業を前提にしている
図1:バリューチェーンの主活動と支援活動(筆者作成)

図の右端にあるマージンは、お客さんが払う額から、すべての活動にかかったコストを引いたものです。より高い値段で選ばれる理由を作ることと、活動ごとの余計なコストを減らすことが、マージンを大きくします。

9つの名前は、製造業を前提にしています。受託の仕事やサービス業では、そのまま当てはめにくいこともあるので、自社で使っている仕事の言葉に置き換えて分けます。分け方は第4章で説明します。

バリューチェーンは、会社の仕事を主活動と支援活動に分け、どの活動が、より高い値段で選ばれる理由やコストを抑えられる理由を生んでいるかを見る考え方です。

サプライチェーンとの違い

サプライチェーン(供給網)は、原材料が作り手や卸、小売を経てお客さんに届くまでの、会社をまたいだモノの流れです。在庫や納期を合わせ、流れを途切れさせないことに目を向けます。

バリューチェーンは、その流れの中にある1つの会社が、自社の中のどの活動で価値を生んでいるかを見るものです。第1章で紹介した研究所は、1つの会社のバリューチェーンは、多くの場合、仕入れ先や、売る先までの流通にかかわる会社のバリューチェーンとつながった、より大きな流れ(価値システム)の一部だと説明しています。

サプライチェーンバリューチェーン
見る範囲原材料からお客さんまで。会社をまたぐ1つの会社の中
見るものモノの流れ(在庫・納期・運ぶ量)活動ごとに生む価値と、かかっているコストや時間
決めることどこで在庫を持つか、どう運ぶかどの活動を磨き、どれを外に頼むか

※筆者の整理

この記事で例にする、急ぎの小口の試作を請け負う架空の部品加工会社でいえば、材料の仕入れ先から自社を経て、試作品を使うお客さんまでの流れがサプライチェーンです。その中で、自社の仕事のどれが選ばれる理由を生んでいるかを見るのが、バリューチェーンです。

サプライチェーンは会社をまたぐモノの流れで、バリューチェーンは1つの会社の中で価値を生む活動の並びです。

バリューチェーン分析の進め方

バリューチェーン分析は、一般に次の順で進めます。

  1. 自社の仕事を、主活動と支援活動に分ける
  2. 活動ごとに、かかっているコストを出す
  3. 活動ごとに、強みと弱みを見る
  4. どの活動を磨き、どれを効率化したり外に出したりするかを決める

手順3で、強みが本当に競争優位になっているかを確かめるときには、VRIO(価値・希少性・まねされにくさ・それを生かす組織)という問いがよく使われます。この記事の進め方では、VRIOの代わりに、第5章の受注の決め手で確かめます。強みが本物かの確かめ方は、3C分析の記事で解説しています。

関連記事3C分析は、埋めた後に何を確かめるかで決まる【テンプレート付き】

活動ごとのコストを出せる会社は、この順のまま進めてかまいません。ただ、小さな会社では、手順2で手が止まりがちです。そこで、この記事では、手順2と手順3の中身を差し替えて進めます。

小さな会社は、手順2と手順3の中身を差し替えて進める 一般の進め方 1 活動に 分ける 2 コストを 出す 3 強み・弱み を見る 4 磨く・外に 出すを決める この記事の進め方 1 活動に 分ける 第4章 2 誰の時間を 月に何時間 第4章 3 受注の決め手 に出るか 第5章 4 重ねて4つに 分けて決める 第6章 コストの代わりに時間、社内の強みの代わりにお客さんの決め手で見る
図2:一般の進め方と、この記事の進め方(筆者作成)

手順2では、活動ごとのコストの代わりに、誰がその活動に月に何時間使っているかを書きます(第4章)。手順3では、お客さんが頼む先を決めた理由、つまり受注・失注の決め手を、どの活動が生んでいるかを確かめます(第5章)。手順4では、時間と決め手を重ねて、自社に残す仕事と外に頼む仕事を決めます(第6章)。

活動を書き出すのは経営者、時間を付けるのは仕事をしている一人ひとり、決め手を持ち寄るのは、お客さんとやりとりしている人(例の会社では社長)です。最後に決めるのは経営者です。

活動ごとのコストが出せない会社は、手順2をコストから時間に、手順3を社内の強みから受注の決め手に置き換えて進めます。

小さな会社は、活動ごとのコストではなく「誰の時間を使っているか」で並べる

バリューチェーン分析の説明では、活動ごとにかかっているコストを出すように書かれていることが多くあります。ところが、小さな会社の帳簿は、人件費や材料費、外注費といった費目ごとに分かれていて、活動ごとには分かれていないことが多くあります。たとえば、社長の人件費のうち、見積もりにいくら、打ち合わせにいくらかかっているかは、帳簿からは分かりません。

小さな会社でいちばん足りないのは、お金よりも、社長やベテランの時間であることが多くあります。見積もりも、難しい加工も、その人にしかできないことがあり、受けられる仕事の量も、その人たちの時間で決まります。そこで、活動ごとのコストの代わりに、誰の時間を、月に何時間使っているかで並べます。

まず、活動を書き出します。ポーターの9つの名前は使わず、自社の仕事の言葉で分けます。部品加工会社なら、次のようになります。

部品加工会社の仕事を、自社の言葉で10の活動に分ける 支援活動 請求・経理と書類 全般管理 人を採って育てる 人事労務管理 機械と道具を選び、整える 調達・技術開発 主活動 問い合わせを受け 図面を確かめる 販売とマーケティング 見積もりを作る 販売とマーケティング 材料を仕入れる 購買物流・調達 段取り 1個から・急ぎに合わせる 製造 加工と検査 製造 届ける・打ち合わせ に行く 出荷物流 次の試作の相談 事例や記事を作って送る 販売とマーケティング 小さな文字は、ポーターの9つの名前のどれに当たるか。例は架空の部品加工会社
図3:架空の部品加工会社の活動。主活動7つと支援活動3つ(筆者作成)

主活動は、問い合わせを受けて図面を確かめるところから、次の試作の相談までの7つ、支援活動は、それを支える3つに分けました。9つの名前のどれに当たるかを小さく添えておくと、本や記事の説明と見比べられます。材料を仕入れる活動は、選んで買うこと(調達)と、受け入れて保管すること(購買物流)の両方を含みますが、お客さんに届くまでの流れの一部なので、主活動に入れました。9つの全部がそろわなくてもかまいません。この会社には、売ったあとの修理のような仕事が無いので、サービスに当たる活動はありません。どこまで細かく分けるかは、誰がやっているかが変わるところで分けるのが目安です。同じ人が続けてやる仕事は、まとめてかまいません。ただし、見積もりや打ち合わせのように、お客さんの決め手に出てきそうな仕事は、同じ人がやっていても分けておきます。

次に、活動ごとに、誰が月に何時間使っているかを書きます。正確に測る必要はありません。まずは1週間、日報やカレンダーの端に、どの活動に何時間使ったかを、30分くらいの単位で書いてもらいます。それを4倍して、ひと月の目安にします。急ぎの案件が重なった週や、休みの多い週は避けます。

活動誰が月の時間(目安)
問い合わせを受け、図面を確かめる社長10
見積もりを作る社長30
材料を仕入れる事務8
段取り(1個から、急ぎに合わせる)ベテラン30
加工と検査ベテラン200
届ける・打ち合わせに行く社長8
次の試作の相談・事例や記事を作って送る社長20
請求・経理と書類(支援)社長・事務社長6・事務30
人を採って育てる(支援)社長6
機械と道具を選び、整える(支援)ベテラン16

※架空の部品加工会社の例。時間は1週間付けた分を4倍にした目安

表にすると、社長は見積もりと、次の試作の相談・事例や記事に、ベテランは加工と検査に、多くの時間を使っていることが分かります。時間は全員の分を書きますが、第6章で4つに分けるときは、いちばん足りない社長とベテランの時間で見ます。

時間を付ける手間は、各自が1週間、1日に数分です。

小さな会社は、活動ごとのコストの代わりに、誰の時間を月に何時間使っているかを書いて、活動を並べます。

価値は「受注の決め手に出てくる活動か」で見る

分析の手順3では、活動ごとに強みと弱みを見ます。ただ、社内の見方だけで強みを挙げると、お客さんが選んだ理由とずれることがあります。KSF(重要成功要因)の記事で見たように、部品加工会社が社内でいちばんの強みだと思っていた加工の精度は、最近の受注と失注のどの決め手にも出てきませんでした。

そこで、お客さんが頼む先を決めた理由(決め手)から、活動の価値を確かめます。見るのは、その決め手をどの活動が生んでいるかです。記録が無ければ、最近受注した3件と失注した3件を選び、受注したお客さんには「なぜ、うちに頼んでくださったのですか」、失注したお客さんには「どの会社と比較し、何を決め手に選びましたか」と聞いて、短い言葉で書きます。決め手の拾い方は、KSFの記事で解説しています。

関連記事KSFとは?意味と、受注・失注の決め手から見つける方法【テンプレート付き】

KSFの記事で拾った、部品加工会社の最近の受注3件と失注3件の決め手を、どの活動が生んでいるかで結ぶと、次のようになります。

受注・失注の決め手を、どの活動が生んでいるかで結ぶ 受注3件・失注3件の決め手 生んでいる活動 見積もりがその日のうちに届いた 受注2件 見積もりを作る 1個から受けてくれた 受注1件 段取り 工場が近く、すぐ来てくれた 受注1件 届ける・打ち合わせに行く 表面処理まで、まとめて頼めた 失注2件 表面処理(自社に無い) 自社の流れの外 価格が安かった 失注1件 1つの活動には結ばない(全体の結果) 決め手に出なかった活動:加工と検査、次の試作の相談・事例や記事、問い合わせ、材料、支援活動
図4:決め手と活動を結ぶ。決め手はKSFの記事の6件の案件から。例は架空の部品加工会社(筆者作成)

「見積もりがその日のうちに届いた」という決め手を生んでいるのは、見積もりを作る活動です。この決め手は、受注した3件のうち2件で挙がっていました。「1個から受けてくれた」は段取り、「工場が近く、すぐ来てくれた」は、届ける・打ち合わせに行く活動が生んでいます。それぞれ、受注した1件で挙がっていました。受注の1件では、見積もりの速さと1個から受けることの2つが挙がっていたので、件数を足すと、受注の3件より多くなります。

失注の2件に出た「表面処理まで、まとめて頼めた」は、この会社の活動のどこにもありません。お客さんが決め手にしている条件を、自社の流れの外にある活動が生んでいる、ということです。表面処理の協力会社と組むか、表面処理の要らない急ぎの試作に絞るかは、KSFの記事で取り上げた判断です。この会社は、協力会社と組めるかを次の四半期までに確かめることにしています。「価格が安かった」は、この例では1つの活動には結ばず、別に残しておきます。価格には、すべての活動にかかったコストに加え、値段の付け方も関わるためです。

活動決め手に出たか出た決め手(件数)
見積もりを作る出た見積もりがその日のうちに届いた(受注2)
段取り出た1個から受けてくれた(受注1)
届ける・打ち合わせに行く出た工場が近く、すぐ来てくれた(受注1)
加工と検査出ていない—
次の試作の相談・事例や記事を作って送る出ていない—
問い合わせ、材料、支援活動出ていない—
(自社に無い)表面処理出た表面処理まで、まとめて頼めた(失注2)
(1つの活動に結ばない)価格—価格が安かった(失注1)

※架空の部品加工会社の例。決め手はKSFの記事の6件の案件から

決め手に出てこなかった活動は、要らない活動ではありません。請求や経理が止まれば、会社は回りません。加工の精度も、KSFの記事で触れたように、お客さんが「できて当たり前」と見ていて、頼む先を決める理由にはしていないだけかもしれません。決め手との結びつきから分かるのは、その活動が、ほかの会社ではなく自社を選んでもらう理由になっているかどうかです。

ここでは、受注・失注のどちらかで1件でも挙がった活動を「出た」とします。KSFの記事では2件以上を候補にしましたが、ここで見るのは、その活動が選ばれる理由に関わっているかどうかなので、1件でも数えます。失注の決め手に出た活動も、ほかの会社がそこで選ばれたということなので、同じく「出た」に数えます。KSFの記事のテンプレートで決め手を数えてあれば、それを写せます。

活動の価値は、社内で強みだと思っているかではなく、受注・失注の決め手に出てくるかで見ます。

時間と決め手を重ねて4つに分け、残す仕事・頼む仕事を決める

第4章の時間と、第5章の決め手を重ねます。縦軸を「決め手に出るかどうか」、横軸を「社長とベテランが多くの時間を使っているかどうか」にすると、活動を4つに分けられます。時間の多い・少ないを分ける目安は、会社ごとに決めてかまいません。この例では、月20時間以上を「多い」としました。社長とベテランの時間を多い順に並べ、上からいくつかを「多い」としても分けられます。この例では、上の4つ(20時間以上)が「多い」に当たります。

時間と決め手を重ねると、残して磨く活動と、頼む候補が分かれる 決め手に 出る 決め手に 出ない 社長とベテランの時間:少ない 社長とベテランの時間:多い 2 時間を足す 届ける・打ち合わせに行く(8) 1 自社に残して磨く 見積もりを作る(社長30) 段取り(ベテラン30) 4 そのまま 問い合わせを受け、図面を確かめる(10) 材料を仕入れる(事務) 請求・経理(社長6) 人を採って育てる(6) 機械と道具を選び、整える(16) 3 やめる・道具・頼むの候補 次の試作の相談・事例や記事(社長20) → 事例や記事を作る作業を外に頼む 加工と検査(ベテラン200) → 当たり前と見られているかも。 残して時間を減らす ( )はひと月の時間の目安。この例では20時間を多い・少ないの目安にした。例は架空の部品加工会社
図5:時間と決め手を重ねて4つに分ける。例は架空の部品加工会社(筆者作成)

1つ目は、決め手に出て、時間も多く使っている活動です。部品加工会社では、見積もりを作ることと段取りが当たります。ここは自社に残して磨きます。いちばん気をつけたいのは、ほかの仕事に押されて、この活動の時間が削られることです。見積もりの速さが決め手なのに、社長の時間がほかの仕事に取られて、見積もりを返すのが翌日になれば、決め手そのものが弱くなります。

2つ目は、決め手に出ているのに、時間をあまり使っていない活動です。届ける・打ち合わせに行く活動がこれに当たります。受注の1件で「すぐ来てくれた」が決め手になっていました。急ぎの案件では、出向いて図面を確かめる時間を先に取っておく、といった形で時間を足す候補です。いまの時間で足りているなら、増やさなくてかまいません。その場合も、急ぎが重なったときにこの時間が削られないようにしておきます。

3つ目は、決め手に出ないのに、時間を多く使っている活動です。社長が月に20時間使っている、次の試作の相談と、事例や記事を作って送る活動が当たります。ここが、外に頼むか、道具に任せるか、やめるかを考える場所です。まずは、やめても困らないかを考えます。同じことを2か所に書いている作業や、誰も見ていない資料づくりなどが候補です。事例や記事のように、知ってもらうための仕事は、効き目が決め手に表れるまで時間がかかるので、決め手に出ないことだけでやめず、問い合わせのきっかけを聞いて確かめます。続ける必要がある仕事は、ソフトや機械などの道具に任せられないか、それが難しければ、社内のほかの人や外の会社に頼めないかを考えます。この会社では、事例や記事を作る作業を外に頼み、どのお客さんに何を送るか、次の試作の相談は社内に残すことにしました。頼むと決めた活動は、頼む作業と社内に残す作業に時間を分け直し、頼んだあとの依頼や確認にかかる時間も見込んでおきます。

頼む相手は、外の会社とは限りません。事務の担当や若手に任せられる仕事も、ここで見つかります。知ってもらう、相談につなげるといったマーケティングの仕事を外の会社に頼む場合は、そのうちのどの作業を頼み、何を社内に残すかを決める必要があります。決め方は、マーケティング支援会社の記事で解説しています。

関連記事マーケティング支援会社とは?会社を比べる前に、どこを頼むかを決める選び方

3つ目には、もう1種類の活動が入ります。加工と検査のように、決め手には出てこないのに、ベテランの時間をいちばん多く使っている活動です。こうした活動を、決め手に出ていないという理由だけで外に出したり、やめたりすると、品質や納期が保てなくなり、お客さんが困ります。お客さんができて当たり前と見ている条件は、決め手として名前が挙がりにくく、決め手に出ないことが、要らないことを意味しないからです。見分けるには、その活動の質が落ちたら、お客さんが頼むのをやめるかを考えます。やめると思うなら、当たり前と見られている活動です。この会社は、次に受注したお客さんに、精度も比べたかを聞いて確かめることにしています。こうした活動は自社に残し、段取りを見直す、測る道具を入れる、といった工夫で、時間を減らすことを考えます。ただし、同じ品質と納期を保てる外の会社があるなら、頼んでもかまいません。

4つ目は、決め手に出ず、時間も少ない活動です。問い合わせの受け付け、材料の仕入れ、請求や経理、人を採って育てること、機械と道具を整えることなどが当たります。ここは、いまはそのままにして、見直しのたびに時間が増えていないかを見ます。社長やベテランが請求や転記に多くの時間を使っているなら、3つ目に入り、道具や事務の担当に任せる候補になります。

活動4つのどれか次にやること(例)
見積もりを作る1:磨く社長が見積もりに使う時間を先に押さえ、その日のうちに返す速さを守る
段取り1:磨く1個からの急ぎを受ける段取りを、ベテランが続けられるようにする
届ける・打ち合わせに行く2:時間を足す急ぎの案件は、出向いて図面を確かめる時間を先に取る
次の試作の相談・事例や記事を作って送る3:頼む事例や記事を作る作業を外に頼み、誰に何を送るか、次の試作の相談は社内に残す
加工と検査3:残して時間を減らす段取りの見直しや測る道具で、検査の時間を減らす
問い合わせ、材料、支援活動4:そのまま見直しのたびに、時間が増えていないかを見る

※架空の部品加工会社の例

頼む、やめるを決めるのは、コストを削るためではありません。1つ目と2つ目の、決め手を生んでいる活動に、社長とベテランの時間を戻すためです。手が回らないときに残業を増やすだけでは、選ばれる理由を生む活動の時間は増えません。この会社なら、事例や記事を作る作業を頼んで空いた社長の時間を、見積もりと打ち合わせに回せます。

いま決め手に出ていないからといって、すぐに外に出す必要はありません。決め手は、受注と失注の記録が増えると変わることがあります。数え直してから決めても遅くはありません。反対に、決め手に出る活動を外に頼むこともあります。部品加工会社が表面処理の協力会社と組むと決めたら、決め手を生む活動を外に頼むことになります。その場合も、お客さんとの窓口と、納期の取りまとめは社内に残します。

KSFの記事では、決め手と社内の強みを重ねて、何で選ばれる会社を目指すかを決めました。この章では、決め手と時間を重ねて、誰の時間をどこに使うかを決めています。最終的に決めるのは経営者ですが、その前に担当者と話し合っておくと、時間の付け方や活動の捉え方の違いにも気づけます。

時間と決め手を重ね、決め手を生む活動に社長とベテランの時間を戻すために、やめる活動、道具に任せる活動、外に頼む活動を決めます。 お客さんができて当たり前と見ている活動は、残して時間を減らします。

見直す時期と、自社でやること・頼めること

決め手は、新しい受注や失注が出るたびに書き足し、四半期に1回を目安に数え直します。KSFの記事やポジショニングマップの記事と同じ時期です。そのときに、時間も1週間だけ付け直し、4つの分け方を見直します。人が増えた、機械を入れた、協力会社と組んだ、といった変化があったときも、見直すきっかけになります。

作業は、自社でやることと、外に頼めることに分かれます。

記録と判断は自社で持ち、分け方の相談と、頼むと決めた作業は外に頼める 自社でやること 活動を書き出す 時間を1週間付ける 決め手と活動を結ぶ どの活動を頼むかを決める 四半期に1回見直す 外に頼めること 活動の分け方を一緒に考える 4つの分け方を一緒に考える 3つ目で頼むと決めた作業 (例:事例や記事を作る作業) 時間と決め手を知っているのは社内の人なので、記録と判断は自社に残す
図6:自社でやることと、外に頼めること(筆者作成)

活動を書き出し、時間を付け、決め手と結び、どれを頼むかを決めるのは、自社でやります。私は、「うちの強みは、どの仕事が生んでいるのか」という問いは、外の会社に丸投げできないと考えています。どの仕事に誰の時間がかかっているか、お客さんが何を決め手にしたかを知っているのは、社内の人だからです。外の会社は、それを掘り出して整理する手伝いはできても、答えを持っているわけではありません。

外に頼めるのは、活動の分け方や4つの分け方を一緒に考えてもらうことと、3つ目で頼むと決めた作業です。この会社なら、事例や記事を作る作業がこれに当たります。外に頼む作業が増えると、頼める会社が1社しかない、といった状態も生まれます。外注先から値上げを求められたときに、自社にどれだけ交渉の余地があるか(売り手の交渉力)を、仕入れの記録や外注先の一覧から見る方法は、ファイブフォース分析の記事で解説しています。

活動の書き出し、時間と決め手の記録、何を頼むかの判断は自社で行い、分け方の相談と、頼むと決めた仕事そのものは外に頼めます。

バリューチェーンのテンプレート

自社でバリューチェーンを分析するときに使えるように、この記事の手順に沿ったテンプレート(Excel)を用意しました。ファイル1つに、次の5つのシートが入っています。

  • 使い方:書く順番と、それぞれのシートで何を書くか
  • 1_活動を書き出す:活動と、主活動か支援活動か、誰がやっているか、月に何時間か(1週間の4倍)を書く
  • 2_決め手と結ぶ:受注・失注の決め手と件数を書き、どの活動が生んだかを選ぶ。自社に無い活動が生んでいる決め手には印を付ける
  • 3_4つに分ける:決め手に出るかどうかと、社長とベテランの時間の多さから、4つのどれに入るかが出る。次にやることと、頼む先を書く
  • 4_記入例:架空の部品加工会社で、10の活動を4つに分けた例
テンプレートは、書き出す・結ぶ・4つに分けるの3枚が中心 1_活動を書き出す 活動と、主活動か支援活動か 誰がやっているか 月に何時間か (1週間の4倍) 2_決め手と結ぶ 決め手と件数 どの活動が生んだか 自社に無い活動に印 3_4つに分ける 決め手に出るか×時間 4つのどれかが出る 次にやること 頼む先 ほかに「使い方」と、記入例のシート(架空の部品加工会社)が入っている 決め手は、KSFの記事のテンプレートで数えたものを写せる
図7:バリューチェーンのテンプレート(Excel)のシート構成

「活動を書き出す」「決め手と結ぶ」「4つに分ける」の順にシートを埋めると、自社に残す仕事と、外に頼む仕事まで決められます。 決め手は、KSFの記事のテンプレートで数えたものを、そのまま写せます。

バリューチェーンのテンプレート(Excel)をダウンロードする

※登録や個人情報の入力は要りません。クリックすると、Excelのファイル(バリューチェーンテンプレート.xlsx)がダウンロードされます。

ARROWSのマーケティングコンサルティング

第7章のとおり、頼むと決めた作業は外に頼めます。記事を作る作業なら、ARROWSでは記事の制作として別にお見積もりします。そのうえで、ARROWSのマーケティングコンサルティングでは、その記事を誰に届け、問い合わせにどうつなげるかの戦略から、SEO・AI検索対策、広告、見込み客のフォローまでを担います。

どの分野に手を厚くするかは、毎月の打ち合わせで、数字を確かめながら一緒に決めます。何を外に頼むかを決めるのは、第7章のとおり自社です。

まとめ

小さな会社でバリューチェーンを分析するときは、誰がどの活動に月何時間使っているかで並べ、受注・失注の決め手を重ねると、自社に残して磨く仕事と、外に頼む候補の仕事が見えてきます。

まずは1週間だけ、社長とベテランが、どの活動に時間を使ったかを付けてみてください。KSFの記事のテンプレートで数えた決め手があれば、それと結び、決め手を生んでいる活動に時間が足りているかを確かめます。